微生物が歌う
春がずんずん近づいてきている。
僕は得体の知れない不安に包まれて汗ばむ。
どんな人でも春が来れば脱皮するのだ。
以前の自分を捨てて、新しい自分になろう。
絵空ごとを言ってやがると思いつつも
鏡の中の自分を見て驚く。
ほら、やっぱりどこか違う。もう昔の自分じゃない。
慌ててパソコンを開くと
以前のパスワードを忘れている。
仕事のやり方も覚えていない。
何回も失敗をして舌打ちした。
そしてブツブツひとりごと。
たくさんの不満、文句が口からガスのようにぶすぶす吹き出た。
だってこの状況‥そもそも無茶な‥だいたい今の世の中は‥。
それらは、バクテリアのエネルギーにでも使いたまえ。
土中の微生物たちの合唱がして、そうね、そうしましょうと納得する。
春には引っ越して別の次元へ行くのです。
飛行物体のスピーカーから放送が流れ、僕はタラップを踏む。
あふれる知識と豊かな経験を携え、
もうスマートフォンの買い替えや老後の生活に悩むこともない。
すべては懐かしい思い出。
今までのことが遠ざかる。
あれ、僕は今どこにいる?
バナナの皮が目の前に横たわっている。
黄色い色。
春の証拠だ。