tabitamiの日記

日々を生きていくことが旅だ。たくさんの人=たみ。旅する民をラクガキスタイルで表現する。

私の色

25才の頃、劇団の研修生をしていた。

やっぱり舞台に立ってみたかったんだなぁ。

バレエを習ってた経験を生かせないか考えてのチャレンジだった。

芝居の世界はバレエとちがって、厳格な規則はないだろうと思った。

どんな体でもどんな顔でも誰でもできるはずだ。

たしかに何でもありだ。

だけど舞台に出て輝くってことは、かなり厳しいことだ。

ある日、授業で笑うことになった。

泣く、怒る、笑う、の中で笑うことが一番難しいことと思う。

別に面白いこともないのに笑うのだ。

さあ、笑って!と言われた40人ばかりの研修生が皆、順番に前に出て笑う。

ゲラゲラ笑う人、走り回って狂ったように笑う人、

見ている人をバカにしたように笑う人

それなりにつつがなく課題をこなしていくのを見ていて、

こりゃ、僕には無理だ。と悟った。

ふだんから笑っている人はすんなりできるだろう。

僕はブツブツひとりごとを言ってニヤッとするような奴だった。

笑えない。舞台向きの大きな表現ができない。

でもでも、どこか抜け道があるはずだ。

どんどん順番が回ってくる中で必死に考えた。

今の気持ちから出発するしかない。

この悲しいような腹の立つような状況。

順番がきて僕は前に出た。

悲しいような怒ったような表情のまま。

すると、見ていた研修生たちからプッと笑う声が漏れた。

え?おかしいのか僕は?

じゃ、みんなの笑いに乗っちゃえ。

いきなり緊張がとけた僕から小さな笑いが生まれた。

みんなのようにはできないが小さな笑いが次の笑いの波を呼び

不思議な間をはさんでさざなみのように笑えた。

 

役者にはなれなかった今、

それでも試練を乗り越えて見せたことが

僕の宝だ。

生まれながらに人に色があるならば

自分の色を出してみよう。

人とはちがう自分の色がたくさんの人の色と

混ざっていく。

 

 

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母と子